◆中学受験の窓口 今日のメニュー
・偏差値下り坂傾向の特徴
・駅からバスで20分強、さらに徒歩
・埼玉で偏差値下降の中学の理由
・「目に見えるもの」に左右される
この10年の間に偏差値がかなり高くなった中学校がある中で、逆に偏差値ポイントが年々低くなっている中学校も残念ながらあります。
教育内容や進学実績が劣るというのでは決してありません。しかし、受験生側の志向の変化、時代の潮流、学校のアピールの方向性などがうまくいっていないという背景が低迷の一因にあるともいえます。偏差値が上がった学校や毎年コンスタントに受験生を集めている学校は、その点はやはり「上手い」です。
偏差値という点において、下り坂傾向の中学を四谷大塚の「合不合判定テスト」をもとに、合格可能性80%偏差値(入試結果をもとに出した偏差値、23年度用からAライン) で見てみると、キーワードとして出てくるのが「学校へのアクセス」「売りの弱さ」「目に見える分かりやすさがない」などです。
学校へ通学する子ども自身もそうですが、親御さんは学校へのアクセス、特に最寄駅からの「バス乗車」「徒歩」の時間を気にしています。全てあてはまるというわけではありませんが、傾向として最寄駅から学校まで「遠い」学校は、敬遠されてしまいます。特に女子はその傾向が顕著です。
東京都調布市にある、創立60年余の女子校・晃華学園は、2013年の偏差値は「58」(2月1日入試)でしたが、22年は「50」で8ポイントダウン。50を割った年もありました。
アクセスは、学校のホームページによると、京王線「つづじケ丘」駅からバスで6分、降車後さらに徒歩で5分かかります。これは近い方で、JR利用の場合、「三鷹」駅からはバスで26分、さらに学校まで徒歩5分、「吉祥寺」からだとバス22分、徒歩は10分を要します。
東京都八王子市の共学校・穎明館(えいめいかん)も、近年偏差値が下降傾向です。13年の2月1日1回目入試では「53」でしたが、16年に「47」と急落。18年に「44」となってからは落ち着いていますが、上昇気配はみられません。
入試では合格者を以前より絞り、レベル向上の意図がうかがえますが、志願者数は横ばい状態です。ネックは学校へのアクセスにもあって、JR、京王線「高尾」駅からバスで15分、さらに徒歩3分かかります。
スクールバスはJRと京王相模原線の「橋本」駅から出ていますが、バス乗り場まで3分歩く上に、さらに25分乗車します。自宅がどこかによりますが、学校への道のりを考えると、敬遠されてしまう要素になるかもしれません。
2月1日からの東京・神奈川入試、最近は1月20日からの千葉入試を「本命」にしている受験生は積極的に「前受け」として、1月10日からの埼玉入試を受験します。もちろん、埼玉の中学志望で、いきなり「本番」という子もいます。
偏差値から見て、あらゆるステージの学校が複数回の受験機会を用意したり、好調な大学合格実績で「名前を売る」ことに成功した中学は、多くの受験生を集めて、合格者を絞ることでレベル(偏差値)を上げます。
一方で、以前のようなレベルの受験生を集められず、結果偏差値(合格者の模試での偏差値)から見てどうしてもポイントが下がってしまう中学も出てきます。
埼玉では人気のある栄東、大学合格実績で評判の大宮開成、青山学院大の系属校となった浦和ルーテル、女子校として定評のある浦和明の星女子や淑徳与野などが、年々難易度が上がる半面、浦和実業学園(1月12日午後特待、13年「49」→22年「41」)、星野学園(1月10日午前、同「48」→「42」)などがこの10年で偏差値を5ポイント以上ダウンさせています。
「難関校受験前の力試しに格好の場」「GMARCHの合格数」「大学系属校」など人気校には「売り」があるのに対し、偏差値が下降傾向の中学はそれが弱い、と受験生や親御さんには映ってしまっているようです。
偏差値がアップするキーワードとして「共学化」「英語教育」が挙げられますが、それを実践しているからといって必ずしも人気が出て、受験生が集まり、偏差値が上がっていくというものではありません。
東京都目黒区の八雲学園は創立80周年を機に女子校から「共学化」しました。英語教育は戦後間もない1946年(昭和21年)に、アメリカを中心に組織されたGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)関係者による英会話の授業が行われ、アメリカへの研修旅行も1982年(昭和57年)に始めるなど、国際教育の「先駆者」。今でも英語の授業時間は他校より多めです。
しかし、「校名変更」を伴わないからなのか、受験生へのアピールがいま一つなのか、女子の偏差値は共学化前よりダウン(2月1日午前、13年「50」→22年「39」)。大学進学実績は悪くはないのですが、卒業生そのものが100人前後ということもあり、早慶やGMARCHも1ケタのことが多く、数のインパクトはありません。
中高一貫校は6年間過ごして「良かったこと」「期待外れだったこと」が全てわかりますが、入学前はどんなに学校研究しても半分も分かりません。だから、受験校決定には偏差値や進学実績、校舎の外観、校名などの「目に見えるもの」にかなり左右されるのです。
「目に見えるもの」に加えて、学校側は非日常の文化祭や、映像駆使しての学校説明会などの「味付け」をして、イメージを良くし、インパクトを与えて、受験へといざないます。数字とイベントでうまくアピールした学校に成績の良い受験生が集まり、合格者をある程度選別することで、偏差値は上がっていくのです。
偏差値がダウンしているからといって、受験を見送る必要はありません。むしろ、より学校研究を重ね、自ら足を運んで学校を「体感」してほしいと思います。「掘り出し物」はそういう学校にこそあるものです。