◆中学受験の窓口 今日のメニュー
・5割超が「発行・発表2年以内」
・23年も人気だった「寺地はるな」
・「今」という時代を意識できるか
・「コロナ禍」は避けて通れない
中学入試の国語は「物語文」と「説明・論説文」から1題ずつ出題されるのが最もオーソドックスな形式です。中学によってはどちらか1題で素材文の長さが1万時前後、文庫本のページ数にして20ページ前後という「長文」を出題する学校もあります。
出題される素材文は問題を作成する先生が1人で決める場合や、数人の先生で協議の上、とこれも学校によってそれぞれ。ある女子校の先生によると作業工程としては「5月のゴールデンウィーク頃から考え始めて、夏休み前に決定。夏休み中にどこの部分を問題文にするかを決め、10月ごろに設問が出来上がる」と説明しています。
問題が出来上がる時期は「入試直前」という学校もあって、これも一概には言えませんが、どの素材文を使うかの傾向として、最近は「この約2年以内に発表・発行された作品・文章」という流れになっています。割合にして5~6割があてはまります。
物語文で素材文として採用された数が多かった23年度入試の代表作の1つが、寺地はるな「タイムマシーンに乗れないぼくたち」(22年2月発行)。麻布、栄東B、浦和明の星女子第1回、渋谷教育学園渋谷第2回などで出題されました。
7つの短編からなる書籍で、表紙の帯には「人知れず抱えている居心地の悪さや寂しさ。そんな感情に寄り添い、ふと心が軽くする物語」とあります。麻布で出題された素材文は、両親が離婚し、母と一緒に祖母のマンションで生活することになった12歳の少年が、新しい生活にも転校先の学校にもなじめず、ひとり布団にくるまって、以前住んでいた家のことを思い出す――という場面から始まります。
最近の中学入試の素材文の特徴として、年齢は近いものの境遇が中学受験をする子どもたちとは「大きく違う」(一般的にみて、という基準で。同じような境遇の子もいるかもしれません)ケースが取り上げられます。中学校側が入学する子のタイプとして求める像の1つとしている、立場の違う人と「共感できるかどうか」が国語の入試問題を通して見られているのです。
寺地はるなは中学入試でここ2年人気の作家で22年入試は「水を縫う」(20年5月発行)も海城、大妻、東邦大東邦、市川、中央大横浜などで出題されました。22年の後半も精力的に作品を発表しており、24年度入試でも「注目の作家」の1人です。
中学受験の定番作家・瀬尾まいこの「夏の体温」(22年3月発行)は鴎友学園女子、明大中野、専大松戸、暁星などで出題。もはや中学入試国語の「殿堂入り」ともいえる重松清の作品も獨協埼玉、攻玉社、東京都市大付属などで採り上げられています。
説明・論説文の読解素材文も「2年以内に発表・発行されたもの」というのが、トレンドを知るうえでキーワードになります。具体的に言えば、戦争、ジェンダー(社会的・文化的につくられる性別)、コロナ禍によってもたらされたさまざまな格差など、ニュースなどで取り上げられる「世の中の動き」に連動したものがテーマとなって出題されやすいと言えます。
それらの具体的事象を論じるというより、具体的事象を通して「今はどういう時代で、どういう考え方が世の中にあって、どういう影響を人々に及ぼしているか」に言及している文章が素材文として、より「狙われやすい」傾向にあります。
23年度入試で説明・論説文の素材文で「人気」だったのは、現代哲学・現代倫理学が専門の古田哲也・東大准教授が著した「いつもの言葉を哲学する」(21年12月発行)。芝、聖光学院、サレジオ学院、香蘭女学校、渋谷教育学園渋谷など男子校、女子校、共学問わず出題されました。
「ニュースや日常のなかで“言葉が雑に使われている”と感じたことはないだろうか?」という疑問から始まり、「発言を撤回する」「不快な思いをさせて」など、日々何気なく使われている「お約束の言葉」について、もう一度見つめ直すという視点で展開する内容です。
ニュースの表面を「なめる」だけでは、これらの言葉が日常茶飯事、「お約束」のように使われていることも気が付かない受験生は多いでしょう。最近の説明文・論説文の出題は「一歩踏み込んだ」ところまで問われます。なぜなら、中学入学後、学校側は物事を「仮説を立て、自分なりの答えを出し、考察すること」を授業や課外活動など、あらゆる場面で求めているからです。
入試問題を通じてこの「壁」をクリアしないと、6年間ついていくことは難しいと学校側は考えています。国語の素材文1つをとっても、学校はそこまで考えています。意味なく暗記したり、解法丸覚えでは通用しない最近の入試の代表的存在が国語なのです。
23年度の受験生は、本格的に中学入試に参戦する3年生2月から入試当日まで「コロナ」が終始つきまとった世代でした。前代未聞の時代の中で「あなたは何を思い、考えたか」というのも国語の入試問題を通して問われました。
女子学院が素材文として使ったブレイディみかこ「他者の靴を履く」(21年6月)は、著者自身がコロナに感染したことで、いろいろなところでつながっている人間関係に気が付き、立場の違う他者へ思いを巡らせる大切さを問うていました。
早稲田実業出題で、テレビ番組でおなじみの俳人・夏井いつきが書いた「季語は時代の証人」や巣鴨で出た、三瀬尾夏美「おじいさんの空き地」などがも背景には「コロナ禍」がありました。
世間的には「ひと区切り」の雰囲気が広がっていますが、再拡大やアフターコロナの世界など「不確実な」要素が多いだけに、それをどう考えるかをテーマにした出題は、24年度のトレンドの1つになることは間違いなさそうです。