◆中学受験の窓口 今日のメニュー
・「ゆる受験」実は難しい!?
・「激励」それとも「焦り」
・忘れてはならない「慎重さ」
・合格は「終着点」ではない
中学受験の主流は最難関校や偏差値上位の人気校を目指す「ガチ受験」です。
最近は初めから中堅校狙いで参入してくる家庭も多いのですが、中堅校と言えどもそれなりに「ガチ」で勝負しないと合格できません。
周りが「ガチ」だからです。
一方で家庭の状況や子どもの性格に応じて、自分たちのペースで進める「ゆる受験」という選択肢もあります。
「スポーツや習い事を続けながら受験に挑む」、「学習面・対人面の不安から、地元の公立中学ではなく私立へ」、「高校受験を回避し、その分さまざまな体験をさせたい」――。
「ゆる受験」の理由はそれぞれです。
「ゆる受験」は成績優秀ではないかもしれないけれど、子どもに合った環境を求めた「背伸びしをない受験」というスタイルと言えます。
しかし、その世界に足を踏み入れてみると、実は「ゆる受験」になっていないこともしばしばあります。
「ゆる受験」で思い描いた通りの結果を出すのは簡単ではないからです。
中学受験に取り組み始めてしばらくすると、親御さんの口から子どもに向かってついこんな言葉が出ることがあります。
「他の子はもっと努力してるのに」「そんな調子じゃ、どこにも合格できないよ」「そこまで嫌なら、受験やめる?」――。
周りの子の頑張りに比べて、牛の歩みでエンジンがなかなかかからないわが子を見るにつけて親御さんは不安になります。
子どもを奮い立たせたいという気持ちからの「叱咤激励」かもしれませんが、その反面親御さんの焦りがにじみ出た言葉でもあります。
そんな思いはつゆ知らず、子ども親の言葉など右から左、柳に風状態です。
その態度が余計に親御さんの心中を穏やかざるものにするのですが、焦りや苛立ちをそのまま子どもにぶつけると、親子間の衝突を招くだけです。
感情のぶつかり合いは、ただでさえ限られた時間の中で受験勉強を進めるうえで、「最悪のロスタイム」になります。
そんなときこそ、いったん立ち止まり「うちはなぜ“ゆる受験”を選んだのか」という原点を、親子であらためて確認することが大切です。
「無理なく続けられる範囲で学習のペースを維持する」――それが「ゆる受験」の基本方針であり、唯一といっていいルールです。
このスタイルを選んだ以上、成績が上がっても下がっても一喜一憂せず、必要以上に急かしたりプレッシャーをかけずに、一定の勉強量と質、積み重ねを大切にしながら歩みを進めることが肝です。
広く浅くやるよりも、限られた範囲であっても「確実にできること」を増やしていきます。
中途半端な理解で手を広げるより、数としては少ないかもしれませんが、しっかりと習得した知識や技能で本番に臨めるようにすることが、最終的な力になります。
仮に子どもが学ぶ楽しさに目覚めて、意欲的に取り組むようになったとしても、すぐに量を増やしたり範囲を広げたりしないことがポイントです。
最初のうちは、子どもが乗ってきて「もっとやりたい!」と勢いづくこともあるかもしれません。
ですが、そのテンションがずっと続くとは限りません。
壁にぶつかった途端、一気に気持ちが折れてしまい、以前よりもやる気を失ってしまうということもあります。
慎重さも「ゆる受験」では忘れてはならない親御さんの姿勢です。
「ゆる受験」のその先にあるのは、合格という「終着点」ではなく、新しい6年間の「出発点」です。
たとえ御三家や難関校に合格しても、それは物語のエンディングではなく、本当の意味でのスタートライン。ところが実際には、「受かったこと」に満足してしまい、その時点で親子ともに気が抜けてしまう――そんなケースが少なくありません。
いわゆる「燃え尽き症候群」です。
中学受験の合格は、映画のラストシーンのような「ハッピーエンド」ではなく、その後に続く新たなステージの幕開けです。
入学してからの6年間で、子どもは大きく成長します。その伸びしろは、受験時の偏差値では測れません。
どんな学校に進学しても、生徒たちは同じ地点から歩みを始め、どのように過ごすかで未来が決まっていきます。
多くの中高一貫校では、生徒が自ら挑戦できるよう、ユニークな取り組みや成長の舞台が用意されています。
その環境を活かせば、高校卒業時には、12歳のときには想像もつかなかったところに立っている可能性が十分あります。
だからこそ、その環境を手に入れるという意味で、中学受験は「あり」の選択なのです。
「ガチ」でも「ゆる」でも、その価値は変わりません。