なぜサピックス「一強」なのか
◆中学受験の窓口 今日のメニュー
・サピックスの本当の強さはどこにあるのか
・喜びと誇りと惨めさと
・入試が一番楽だった
・サピックスと他塾生の大きな違い
・ アウェーを数多く経験すること
★サピックスの本当の強さはどこにあるのか
中学受験の世界で難関校に圧倒的な合格実績を誇るのが、言わずと知れたサピックスです。所属の6年生は毎年6000人程度。日能研の約半分強、四谷大塚なら準拠塾を含めた場合、生徒数では負けています。何人受験しての合格数、合格率ははっきり分かりませんが、当該中学校の実質倍率よりも良い結果になっていると推測できます。
サピックスの「ひとり勝ち」と評する関係者も多いのですが、なぜこれだけの実績を挙げるのでしょうか。最初から「デキる」子が入ってくる、よく練られたテキスト、サピックスメソッドといわれる教授法、など一般的に知られている要因はいくつもありますが、本当の強さは別のところにあると思います。
★喜びと誇りと惨めさと
サピックスは「内部で揉まれている」というのが最大の強みです。「α(アルファ)」クラスというサピックスの上位層が集まる生徒たちの「せめぎ合い」というのは、凄まじいものがあります。
月単位で変わるクラスの昇降に「胃が痛くなる」という親御さんも結構いるのも事実。子どもも「マンスリー」と呼ばれる月例テストを受ける際の緊張感といったら半端ではありません。
サピックスで上位クラスにアップすることの喜び、キープすることの誇り、ダウンして「ベットクラス」(αクラスではなく、AやEなどアルファベットが組名になるクラス)になるみとの惨めさ。外部からは「狂気」にも見えるこの“戦い”は入試以上に厳しい、という見方もあります。
★入試が一番楽だった
それが小学生にとって良いか悪いかは別として、できる生徒たちのハイレベルな入試本番の戦いは、学力以上に「気持ちの強さ」が結果を左右します。実力通りの力を出せるのも、逆にプレッシャーに押しつぶされてしまうのも、個々の「メンタル」で決まると言っても過言ではありません。
ヒリヒリするような競争の中で鍛えられたサピックスの生徒たちから入試本番の後によく聞かれる言葉は「入試が一番楽だった」「楽しかった」というものです。サピックス内でシビれる場面を数多く切り抜けてきた子にとって、入試は晴れの舞台。他塾の生徒を見かけても「サピ生よりできるやつはいない」と、始まる前から相手をのんでいます。強いはずです。
「始めてください、の合図で教室のみんなが問題冊子を“バサバサバサッ”て開いた音を聞いた時、“盛り上がってまいりました!”と心の中でつぶやいた」という子もいます。実力をいかんなく発揮できる状態で入試に臨む――。結果が悪いはずがありません。
★サピックスと他塾生の大きな違い
「始めてください。の合図で教室のみんなが問題冊子を“バサバサバサッ”て開いた音を聞いた時、頭の中かが真っ白になって、少しの間問題をペラペラめくっているだけで、問題を解き始めるのが遅れた」。これは別の大手進学塾へ通っていた男子生徒の入試での感想です。先に書いたサピ生の感想と真逆です。
難関校を受験する生徒は各塾の代表と言えるような子ばかりです。それでも緊張して、落ち着くまでに時間がかかって、力が出始めたと思ったら試験終了、ということは珍しい話ではありません。そこがサピックスと他塾生の大きな違いかもしれません。
高校野球で甲子園の強豪校の選手が「甲子園が一番楽だった」という言葉をよく口にします。そこに行くまでに血を吐くような練習をして、厳しいレギュラー争いの中から選ばれ、1つも負けられない極限の勝負を勝ち抜いてきた選手にとっては、一番緊張しそうな舞台は実は「晴れ舞台」。中学受験によく似ています。
★ アウェーを数多く経験すること
そんなサピ生には勝てないのでしょうか。性格的に強気な子(程度の問題はありますが…)、いい意味で周りを気にしない「鈍感力」の持ち主は入試でも力を発揮します。
普通の受験生なら自分の通っている塾の試験ばかりでなく、他塾の試験を受けに行ってください。模試でも入塾テストでも構いません。他塾の校舎に乗り込んで、周りは全部ホームグランド、自分だけアウェーというシチュエーションがベスト。このアウェーを数多く経験することで、塾内テストは強いけど…という「内弁慶」から脱し、最終的には入試本番でもビビりません。
傷つかないように、傷つかないように、と親御さんは子どもに気を遣いますが、堂々と他塾の“道場破り”ができるような子がサピ生と互角に渡り合えるのです。(受験デザイナー・池ノ内潤)