中学受験は「特急券」です
◆中学受験の窓口 今日のメニュー
・「特急列車」か「在来線普通列車」か
・「途中下車」防止のための特急券
・席種は投資すれば見合ったものが手に入るのか?
・席種はどのレベルの大学へ行けるかを意味する
・実は面白い「自由席」
★「特急列車」か「在来線普通列車」か
「中学受験は“特急券”です」
コミック「二月の勝者―絶対合格の教室―」の2巻の終盤に「桜花ゼミナール吉祥寺校」の黒木蔵人は新人女性講師の佐倉麻衣に向かって、中学受験をする意味を独特の例えを用いて説明します。この「特急券」を手に入れるための手伝いをするのが進学塾の役目であると言い切ります。「大学」という目的地へ、「特急列車」(私立中学)で行くか、「在来線普通列車」(公立中学から公立高校)で行くのかの選択が、まさに中学受験だとするのが、黒木の論理です。
★「途中下車」防止のための特急券
黒木は特急券を親御さんが買い求める理由について「我が子をなるべく確実に目的地に着かせたい」ためとしています。各駅停車の公立ルートが「楽しそうな街に友達と“降りてみようとか”盛り上がったり“途中下車”してしまいかねない」のを防ぐ、つまり大学へ行かない、あるいは浪人などの迂回ルートを選択する可能性を極力、あるいはほぼ完全になくすために、目的地までノンストップの特急券を買う(私立中学に入学する)というのです。
中学受験をして進む私立の多くは、大学進学を前提として中高6年間のカリキュラムを組んでいます。親御さんとしても6年後を見据えての受験であり、そこには「途中下車」は考えられないというのがノーマルな思考でしょう。選択としては「特急列車」一択なのです。
公立へ行ったら「悪い友達へ影響を受けるのではないか」「この先高校受験、大学受験と乗り換えがうまくいって大学へ進めるとは限らない」などの不安から「目的地直通の特急に乗せてしまえ」となります。
★席種は投資すれば見合ったものが手に入るのか?
黒木はさらに「特急券」の種類にまで言及します。「自由席では確実に席に座れるとは限りませんよね。そうすると“指定席”がいりますよね。さらに快適を求めると“グリーン席券”が欲しくなります」。黒木は指定席にしても、グリーン席にしてもお金をかけて買う、つまりより確実に偏差値の高い大学へ進むためには、チケット売り場でもある塾に大金を投入する必要があると述べています。投資した金額に応じてチケットのランクがアップするということです。
これに関しては一概にそう言えないのではないかと思います。塾の案内するままに季節講習や直前講習を取っても結果が伴うかどうかは疑問です。また、値の張る大手進学塾に籍を置いても、第1志望校に合格する保証はありません。塾だけではなく、家庭教師や個別指導まで投入したのに…という事例は、枚挙にいとまがありません。
★席種はどのレベルの大学へ行けるかを意味する
「特急列車」乗車が私立中高一貫校への進学とすれば、席種は6年間後の「目的地」=「進学先の大学」に見立てることはできないでしょうか。
自由席は「とりあえず高校受験の心配はない中高一貫校へ入ったけど、どこの大学へ行けるかは自分の勉強、プランの組み方次第」。指定席は「大学付属など、進学先は確保していてそれ以上でもそれ以下でもない」。そしてグリーン車は「難関校といわれる学校へ進学し、大学も(偏差値的に見て)一流校とよばれるところへ進学できる確率が高い」といった具合です。原則として、購入後の変更はできない、といった感じでしょうか。席の種類も大切ですが、その特急の行く先がどこ行き(具体的な大学名)なのかも大切になってきます。
★実は面白い「自由席」
そう考えると面白いのは「自由席」です。自分をどうカスタマイズいるか(どういう勉強をするか)でどんな大学にも進めるチャンスがあるわけですから。最初、ある特急電車に乗っていても、途中で別の方面(別の大学)に行く特急に乗り換えらるというのもありでしょう。中高一貫校にいても学校のカリキュラムに頼らず、オリジナルの勉強法を確立した子は、グリーン券を持っている人たちと同等の結果を出すことができます。指定席より楽しいかもしれません。
公立の在来線も楽しいのですが、これは黒木も言っているように「まじめにコツコツできるタイプや元々地頭がいいタイプ」でないと、やはり途中下車の確率が高くなります。それでも何をやりたいかの目的意識もなく、成績の見合った入れる大学に通ったり、付属の大学へ行ったり、とりあえず偏差値の高い大学へ、という生徒より、目的をしっかり持った途中下車の方が人生は拓けます。公立も悪いことばかりではないのです。(受験デザイナー・池ノ内潤)