出題される国語物語文のテーマはこれ!
◆中学受験の窓口 今日のメニュー
・文学的文章の素材文に最新作ズラリ
・定番「共感」できる感性を問う出題
・「家族」の難しさに12歳が気付くのか?
・男の気持ち、女の気持ち
・引き継がれそうな物語文出題傾向
★文学的文章の素材文に最新作ズラリ
21年度の国語の入試問題を俯瞰してみると、少しずつ新傾向の問題はあるものの、驚くべき変化はありませんでした。読解問題は9割近い学校が文学的文章(物語文、小説)と説明的文章(説明文、論説文)の2題構成で出題されています。随筆(エッセイ)の場合も時々あり、詩は青山学院中等部、筑波大附属駒場など限られた学校での出題しかありませんでした。
文学的文章は渋谷教育学園幕張の第1次入試で出題された、大正時代の作品である菊池寛の「極楽」などの作品もある一方で、2020年に書籍化された作品が数多く読解の素材文に選ばれました。
★定番「共感」できる感性を問う出題
代表的な作品の1つとして挙げられるのが、寺地はるな「水を縫う」(集英社、20年5月発売)です。出題校は海城、大妻、東邦大東邦、市川、中央大横浜など10校は下らない人気ぶりでした。
テーマは「世の中の<普通>を踏み越えて行く」。刺繍が趣味という男子が中学でそれをからかわれ友達をつくれずにいたところ、高校入学後に声をかけられたことによって次第に交友関係を築いていくが、刺繍が趣味、ということを勇気を振り絞って友人に告白することになり…というストーリー展開です。
中学校側の出題意図は、自分とは「違う世界」を持つ人を受け入れられるか、認めてあげられるか、「共感」できる感性をみていると思われます。中学校へ入学すれば、価値観の違う仲間、外国籍の人、それぞれの背景を持った生徒とともに6年間を過ごします。将来はさらに世界へと飛び出していけば「違うのが当たり前」。作品こそ違え、「共感」をテーマにした出題は今後も続くでしょう。
★「家族」の難しさに12歳が気付くのか?
他者との「共感」が問われる一方で、身内である「家族」であるがゆえにその関係の難しさがある、という12歳の子どもが考えるには複雑なテーマの素材文もみられました。中学受験をする家庭もさまざまですが、「複雑な背景」のある家庭は数多くないと思います。そういう意味で、これも自分とは違う世界があることを理解できるかどうかを問うています。
21年度に各校でよく出題された伊吹有喜「雲を紡ぐ」(文藝春秋、20年1月発売)は、「分かり合えない母と娘」がテーマ。本郷、渋谷教育学園渋谷、鴎友学園女子など、男子校、女子校、共学問わず広く出題されたのも、ちょうど反抗期にあたる受験生が、どう考えているのかを読解問題を通して尋ねている気がします。
いとうみく「朔と新」(さくとあき、講談社、20年2月発売)は、「兄弟の物語」。事故で失明した兄、自分が原因をつくったと責任を感じている弟がブラインドマラソンの一本のロープを通じて心を寄せていくストーリー。栄光学園や成城、ラ・サール(鹿児島)などの男子校で出題されましたが、女子校もこの男兄弟の物語に注目。1月10日が入試だった淑徳与野、同14日がそれだった浦和明の星女子という埼玉の女子校2校が同じ出典の読解問題を出題したというのも偶然とはいえ、おもしろいですね。
★男の気持ち、女の気持ち
男兄弟の心情で作問した女子校があるだけでなく、男の子の「恋心」を読解問題の素材文として出題した女子校もある。豊島岡女子学園が出題した素材文で、児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に18年に掲載された、ひこ・田中「好き、つてきつい。」は、クラスメイトの女子に恋をし寝ても覚めても、その子のことを思う切ない小6男子の話。「どうして、こんな気持ちになるか、ぼくにはわからない」という、恋する男の子の複雑な心境を女子が答えるというシュールな展開も中学入試ならではです。
男子校の場合、女の気持ち、とりわけ「母親の気持ち」を題材にした素材文を使っての作問も目立ちます。駒場東邦が素材文として使った工藤純子の「あした、また学校で」は、登校拒否になった我が子のことで学校側にかけあう場面を通じて母親=女性の複雑な心境を問う問題が出題されました
ジェンダーの話題がさかんに取り上げられる時代に、異性のことをどうとらえているのかを問う意図が背景にあるのでしょう。国語の読解問題も時代とリンクしているのです。
★引き継がれそうな物語文出題傾向
中央大附属は、20年に大ヒットしたTBSドラマ「半沢直樹」の原作から、頌栄女子学院は、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公となった明智光秀が登場する司馬遼太郎の昭和のベストセラー小説「国盗り物語」の一節から出題されました。これもまた「時代」を反映しているのかもしれません。
「他者との共感」「身内だからこその難しさ」「ジェンダー」そして「時代」。国語の物語文の出題傾向は来年度も引き継がれそうです。(受験デザイナー・池ノ内潤)